Nでいえば、仮に経営者の私が生涯を終えたとき、残された家族や社員はどう感じるのでしょう。 彼らが『Nは、いい会社だよ』と賞賛してくれる会社にする、それが私の責任と考えるようになってきました」同社の企業理念の一つである「世の中に必要とされる企業「 こそ、H氏がめざす企業像であろう。
世の中の人々に感謝し、感謝される住生活総合のサービス業…。 これがNが追い求める企業のあり方である。
そのため、同社は既存の常識にとらわれず、知恵と力を結集して挑戦を続ける。 そこに、この企業理念の本意がある。
そしてNという社名には、同社が常に世の中から必要(NEED「N」)とされるように、進化を続けていくという意味が込められている。 強い意志を持った独裁者のような経営者よりも、世の中のためになる事業をめざす経営者になりたい。
こうしたH氏の変化の根幹には、中学・高校のころに読んだ哲学書からの影響もあるかもしれない。 人間は何のために生きるのか。

いかに仕事をすべきなのか。 世の中に役に立つにはどうすればいいのか…。
そんな人生の命題が、H氏の深い部分に響いている。 業界内で幅広い人脈を築く平成六年、H氏が以前勤めていた会社の仲間二人が独立・起業した。
そして、その二人から、「手伝ってほしい」といわれたのを機に、その新会社の取締役・営業部長に就任するH氏は、その有能さを認められ、是非にと誘われて引き抜かれたわけだが、ここでは、H氏はナンバー3の立場を担った。 頼まれると断れないH氏は、この新会社の業績もすぐに軌道に乗せた。
同じ不動産業界で転職を重ねながらH氏は、業界内で幅広い人脈を築き、さまざまな業務を体験する機会を得た。 そして、いよいよ自分の会社を立ち上げようとしていたH氏であったが、なぜか戸建デベロッパーの専務取締役に就任することになる。
ここでH氏は、デベロッパー事業を経験する。 単に戸建ての土地を取得・販売するだけでなく、不動産開発を総合的・多角的に推進するデベロッパー事業だった。
結局、その会社には二年半ほど在籍し、年商五〇億円ほどの企業を二〇〇億円規模にまで拡大させた。 ちなみに、このときの部下数人が、後にH氏が起業するNに参画するメンバーとなる。
それにしても、なぜH氏は独立を決意したにもかかわらず、戸建デベロッパーに入社したのか。 「自分の会社を起業するには、多少の資金があったほうがいいと考え、数人の方に相談しました。

そのデベロッパーの社長に、新会社の事業計画やビジネスモデルの原案を話したところ、私の考えに賛同していただき、何かと協力していただくことになったのですが、『デベロッパーを起業するなら、うちで勉強すればいい』とその社長に諭され勤めることにしました。 たしかに、デベロッパー業務をするには、金融機関の信用を得る必要もある。
それならば、戸建デベロッパーに入って学ぶことは多いと感じたのです」ちょうどそのころ、H氏が読んで印象に残った本がニ冊あった。 一つは『7つの習慣』。
日々の業務のなかで習慣づけることの大切さを学んだ。 もう一冊は『ピジョナリーカンパニー』。
この本と出合い、目から鱗が落ちるように共感したとH氏はいう。 東京・目黒区にあるニード本社「不動産の仲介業というのは、いろいろな業務の形態がありますが、売主と施工会社の聞に入る仲買人のような性質がある。
直接お客さまに会わないケースも多々あります。 これでは、私がめざしたい「ピジョナリーカンパニー」はつくれません。
やはり、誰もが認める「ピジョナリーカンパニー」となるためには、何か問題が発生したとしても、そこから逃げない、ごまかさない、あきらめない、そして、お客さまと真正面から向き合い、長くつきあえるデベロッパーをめざしたいと思いました」こうした思いを抱きつつH氏は、平成十三年九月、ついに株式会社Nを設立したのである。 事業内容に出資を募り、ニードを起業Nを設立するにあたり、資本金一億円を集めようと、H氏は数人の経営者に相談した。
そのなかには、焼肉の「G」チェーンなどを展開する株式会社Riの代表取締役社長・Nt(現・株式会社Rh代表取締役社長)らがおり、H氏の人脈の広さがうかがえる。 「創業一年目は、当然のことながら、なんの業績もないので、金融機関からの借り入れはむずかしい。
自己資金で回すしかないですから、あらかじめ事業資金をつくろうと準備をしました。 そのために私は、いろいろな方とお会いして、ビジネスモデルについて説明し、出資してほしいと話しました。
もちろん、なんの見返りもなく資金を出してくださる方はいませんから、将来、株式公開をめざしてがんばりますので、その分は還元しますと提案したわけです。 みなさん、それなりに評価していただきました」そして、このビジネスモデルの考え方はとてもおもしろいということで、株式会社Brや株式会社日本エル・シー・エーを紹介してもらい、熱くビジネス構想を語った。
こうしてH氏自身が出資した資金と合わせて合計一億円の資本金が集まった。 さらに、Brの子会社である、Rb株式会社が三億円の新株引受権付社債(新株購入の権利がある社債)を発行し、H氏が株式の五〇%以上を所有する資本政策を立案した。

ベンチャー企業は創業時に資金面で苦労するケースが多く、初年度のランニングコストを事前に用意する余裕がない場合がほとんどである。 その点、Nの資本政策は、かなり周到だったようだ。
「そうはいっても、会社を創業したときには、現在のテナントビルのワンフロア七〇坪を賃借したのですが、広すぎるオフィスにスタッフは私を含めて四人だけ。 しかも、机も椅子もない状態でしたから、床に腹ばいになってパソコンを叩いていました。
なぜ、最初からこんなに広いスペースを借りたのかというと、いずれショールームを設置しようと計画していたためです。 実際、二年後の平成十五年には、もうワンフロアを借りてショールームをオープンしました。
でも、当時はとにかく節約しようと、事務用品は一〇〇円ショップで購入したり、机や車なども中古品でそろえ、給与は前職の半分で我慢しようと決めました。 そして、事業が軌道に乗ったら給料を引き上げるということでスタートしたのです」これまで不動産会社でナンバー3、ナンバー2としての重責を担ってきたH氏にしてみれば、待ちに待った独立といえるが、同時にトップとしての重圧を背負うことになった。
当時の心境をH氏は以下のように語る。 「ナンバー2のときは後ろに誰か一人いるわけですよ。

ナンバー3だったら二人いる。 だから、何か困ったことになってもどうにかなるという安心感があります。
ところがナンバー1というのは最後の砦なので、やはりナンバー2やナンバー3とは比べものにならないほどの重圧がありますよね。 もう、このひと言で決まるのかなとか、これが万が一失敗したら、これでアウトだなとか。
はじめは特に何もない状態からスタートしましたから、そういう気持ちはありましたね」トップにしかわからないプレッシャーを感じながらも、H氏は「さあ、これからだ」という希望を胸に遁進していくのだった。


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